ChatGPTをパートナーに:中小企業経営者が掴むべきAIのチャンス

1. AIの民主化という機会

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIが非常に注目されています。この技術は、多くの中小企業に大きな機会を提供していますが、その導入はあまり進んでいません。

従来、AI技術の活用には、専門知識を持つ人材、高性能コンピュータ、そして大量のデータが必要でした。そのため、これらのリソースが乏しい中小企業にとっては、利用が困難でした。しかし、ChatGPTのような生成AIの登場により、高度なAI機能をより手頃な価格で利用できるようになりました。AI技術を誰でも使えるようになったという意味で「AIの民主化」と呼べると思います。

これにより、AIを活用できなかった中小企業でも、大企業との差を埋める絶好の機会が到来しています。にもかかわらず、日本の中小企業においては、業務での生成AI利用は大企業の約1/3程度にとどまっているのが現状です。多くの中小企業経営者が「自社には必要ない」と感じているとのアンケート結果も出ています。

2. ChatGPTは何が得意なのか?

ChatGPTに関して、経営者向けセミナーを開催している私はよく、「Google検索と比較して、ChatGPTの回答が漠然としていて使いにくい」という意見を耳にします。ChatGPTは、ユーザーからの指示(プロンプト)に基づいて文章を生成するのに対し、Google検索はキーワードに関連するウェブサイトのリンクを提供します。そのため、それぞれのツールの特性に応じた使い分けが重要です。

ChatGPTの能力は多岐にわたり、初心者には全体像を掴むのが難しいかもしれません。そこで、私はChatGPTを使用するメリットから説明することにしています。ChatGPTは以下の点で特に優れています:

  • 自然言語を高速で処理することができる
  • 幅広い知識・スキルをカバーしている
  • 新たな「視点」を提供できる
  • ヒトがストレスを感じる作業を淡々と処理できる
  • 24時間365日の稼働が可能

これらの能力により、ChatGPTは多様な業務で活用可能であり、経営者にとって有用なツールとなっています。

3. 経営者が簡単に行える利用例

ChatGPTの活用は、経営者が直面する様々な課題に対して、手軽かつ効率的な解決策を提供します。ここでは、具体的な使用例を紹介します。

    • 心理的ストレスを感じる文章のドラフト作成:

      顧客からの苦情対応や、支払いの催促など、感情を配慮した文章を書く際には、多大な心理的ストレスが伴いますし、結果的にとても時間がかかることが多いものです。しかし、ChatGPTに具体的な指示を与えるだけで、礼儀正しく、かつ配慮深いドラフトを瞬時に入手することができます。そのドラフトを活用して、自分の思いを相手に誠実に伝えることに時間を使ってください。実際にやっていただくと実感されると思うのですが、ChatGPTが生成したドラフトを修正する際にはあまりストレスがかかりません。

    • やり方のわからない業務に関するガイダンスの入手:

      新しいプロジェクトや業務に取り組む際、何から手を付けたらいいかわからず、先延ばしにしてしまうことがあるのではないでしょうか。しかし、それが自分にとっては初めてのことであったとしても、多くの場合、既に多くの人が行っていることであり、そこには定石と言われるやり方であったり、気をつけるべき注意点というものは明らかになっていることが多いものです。なので、何か新しいことを始めるときには、是非ChatGPTに、それを実施するための手順や注意点を聞いてみてください。目の前の状況にピッタリの回答は得られないと思いますが、新しい業務に対する不安を軽減し、適切な方向性を見出すのに役立ちます。

    • ブレインストーミングの相手として:

      ChatGPTの面白い使い方としてブレインストーミングがあります。ChatGPTに、ある「役割」を与え、その視点から受け答えさせるのです。「役割」としては、自社商品の想定顧客・ペルソナを想定して意見を求めるのは一つの方法です。(そもそも自社の商品に対するペルソナを多数考えてもらうのも面白いですのでお試しください)また、新商品開発に関するブレインストーミングであれば、新規技術に対するスタンスの違う人(イノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティー・ラガード等)を想定して意見を聞いたり、あるいは思考のクセ(革新的、保守的、現実的等)を設定するという使い方もあります。

これらの利用例は、ChatGPTがどのようにして経営者の日常業務をサポートし、業務の効率化やストレスの軽減に貢献できるかを示しています。

4. 具体的な活用例

経営者が自分でChatGPTを触ってみることで、「Google検索とは違う使い方が出来そうだ」という感覚が得られると思います。その幅広い使用方法とポテンシャルを感じた上で、少しずつ利用範囲を拡大して頂ければと思います。ここでは、比較的取り組みやすく、初期投資も少なくて済む活用例をいくつかご紹介します。

    • 競合分析レポートの自動作成:

      経営者がChatGPTに「業界内の主要競合の分析レポートを作成して」と指示すると、数分以内に競合の強み、弱み、市場ポジションなどをまとめたドラフトを受け取ることができます。
      ここでご理解頂きたいのは「情報を収集するのが目的ではない」ということです(それはGoogle等検索エンジンの得意分野)。むしろ、自社が独自に持っている情報や見解を積極的に追加で投入し、情報を「統合・整理」することにChatGPTを利用するのがコツです。
      この速さと効率性は、経営者が経営戦略を考える時間を創出してくれます。ChatGPTがまとめてくれた情報を活用して、ご自身の意思決定を迅速化・高度化するのに活用してください。

    • プレスリリースの草稿作成:

      新製品の発表や企業の重要な成果を伝える際に、ChatGPTに基本情報を伝えるだけで、プレスリリースのドラフトを瞬時に作成することが可能です。想定読者や伝えたいメッセージを明確にすることが重要です。また、キャッチコピーのアイデアを多数考えさせて、ご自身の発想の枠を広げるという使い方もおすすめです。これにより、PR活動の初期段階での時間とリソースを大幅に節約することができます。

    • パーソナライズされた顧客メールの作成:

      ChatGPTを活用して、顧客ごとにカスタマイズされた感謝のメールやプロモーション案内を作成することができます。これにより、顧客満足度の向上やリピート率の増加が期待できます。自然言語をChatGPTで処理することによって、セグメンテーション細分化や個別対応を可能にしていくのは、ChatGPT活用の切り口としては非常に有効だと考えています。

これらの活用例からも分かるように、ChatGPTは経営者が直面する様々な課題に対して、柔軟かつ効率的な解決策を提供することが可能です。経営者はChatGPTの機能を活用することで、ビジネスプロセスのスピードアップと質の向上を図り、競争優位性を高めることができます。

5. ロボット・AIに対する要求レベルが高い日本

日本においては、ロボットやAI技術に対する期待値が非常に高く設定されています。これは、文化的背景や、鉄腕アトムやドラえもんといったキャラクターに代表される、ロボットを人間のように扱う傾向に起因するかもしれません。結果として、ChatGPTを含むAI技術に、実現不可能なほどの高い能力を求める声が少なくありません。このような高いハードルが、ビジネスの現場でAIの活用が進まない一因といわれています。

一方、アメリカを始めとする他の国では、ビジネスパーソンが「完璧ではなくても、業務を容易にするものであれば積極的に利用する」という実用主義的なアプローチを取っています。この違いは、ロボットやAIに対する文化的な認識の違いから生じていると考えられます。

クレイトン・クリステンセンが提唱する「イノベーションのジレンマ」を思い出すと、既存の技術や方法論に固執することが、新しい技術の採用を遅らせる要因となり得ます。AI技術、特にChatGPTのような生成AIは急速に進化しており、現在できないことも将来的には可能になると考えられます。そのため、AIの現在の限界を認識しつつも、積極的に触れ合い、可能性を探る姿勢が重要だと思います。

6. 自然言語で指示できるため、日々指示を出す経営者に適している

ChatGPTへの指示は自然言語で行えます。これは、特にITに自信がない経営者にとって、大きなメリットです。経営者は日常的に、自分の意図を周囲に伝え、チームを導くための指示を出しています。ですから、ChatGPTに対しても同様に指示を出すコツを身に着けていただきさえすれば、さまざまな業務でChatGPTの力を引き出すことが可能だと思います。

重要なのは、役割を明確にすること、指示を具体的に伝えること、目的をはっきりさせること、必要なコンテキストを提供することです。

ChatGPTは、指示さえ適切に与えれば色々なことに配慮することが出来ます。しかし、一切忖度はしてくれません。普段、阿吽の呼吸で指示を出している経営者の方は、自分の考え・指示を言語化する練習が必要かもしれません。「長年外国で育った、超高学歴の新入社員に指示するイメージ」とお伝えしています。

7. ChatGPTをパートナーとして使いこなしていく

ChatGPTのセミナーでデモ実演を行うと、参加者の皆さんはとても驚かれます。私は「ChatGPTが可能にする作業は、無価値化する」とお伝えしています。これは、計算機が普及し、ソロバンの計算能力が相対的に価値を失ったのと同様の現象です。

AIの能力が人間を超える日が来るかどうかはともかく、AIを活用できる人材が活用できない人材を凌駕することは確実です。重要なのは、AIをパートナーとして、自分の能力を拡張していくかです。

Googleは、博識であるがゆえに「Google先生」と呼ばれることがあります。それに対して、ChatGPTに対しては「先生」というより「パートナー」というイメージを持つことが適切です。対話(Chat)をナビゲートし、議論を深めていくことで、ChatGPTは価値ある貢献をしてくれます。

経営者自らがChatGPTと対話し、その能力を直接体験することで、このAIツールがビジネスの可能性をどのように広げることができるかを実感できます。ChatGPTは、知識の提供者であると同時に、クリエイティブな発想や問題解決のプロセスにおいて、刺激的なディスカッションパートナーとなり得ます。経営者が自らのビジョンを追求し、市場にない独自の情報を活用してイノベーションを生み出す過程で、ChatGPTは他社との差別化を図るのに役立つツールとなります。

結局のところ、ChatGPTを「明日のExcel」と見なし、その活用能力を身につけることは、将来的に他者を凌駕するための重要なステップです。AIをパートナーとして、どう自分の能力を拡張していくかが、これからのビジネスシーンにおいてますます重要になってきます。

8. ChatGPTによって、あなたの「右腕」の負担を下げる

ChatGPTの可能性を目にした経営者の中には、すぐにこのAIが自身の参謀や右腕になり得ると期待する方もいます。しかし、現段階ではChatGPTにはそのような全面的な支援を期待するのは難しいと私は考えています。より現実的なアプローチとしては、経営者の右腕となるスタッフをChatGPTで「武装」することで、日常業務の負担を軽減し、創造性や顧客対応の能力を向上させることです。

ChatGPTの活用は、情報収集・整理やドラフト作成など、さまざまな業務プロセスを効率化してくれます。これにより、従業員はルーティンワークの時間的・精神的負担を下げ、より戦略的または創造的な業務に向き合うことができるようになります。

将来的には、ChatGPTがより高度なタスクをこなせるようになり、経営者の右腕としての役割を果たす日が来るかもしれませんが、それまでは、現在の機能を最大限に活用し、組織全体の効率化と能力向上を目指すべきです。

9. AIをパートナーとして新しい付加価値を生み出す

セミナーの参加者から「ChatGPTを使って自社の戦略策定を自動化できないか」というお問い合わせもたびたびいただきます。確かに、ChatGPTを用いれば、経営戦略という文章を生成することは可能です。しかし、経験豊富な経営者がそれを見た場合、しばしば既知の戦略の焼き直しと感じることが多いと思います。これは、プロンプト技術の側面もありますが、AIによって生成された内容が必ずしも独自性や創造性に富んでいるわけではないためです。

戦略の本質は「他社との差別化」です。AIの利用が広がっていく中で、AIからのアウトプットで他社と差をつけることは出来ません。差別化を生み出すのは、経営者の独自のビジョンであり、また、ネットに公開されていない独自の経験・ノウハウ・情報であり、そこで働くヒトの創造力だと考えています。AIに差別化アイデアを出してもらうのではなく、差別化するための活動をサポートさせること。それによって時間優位を勝ち取っていくことが重要だと思います。

ChatGPTは、「明日のExcel」と呼ぶにふさわしいツールです。AIを効果的に活用する人は、将来的に活用できない人を凌駕します。最も重要なのは、AIをどのようにしてビジネスのパートナーとして取り入れ、自分の能力を拡張していくかです。ChatGPTを単なる情報源ではなく、創造的なプロセスのパートナーとして活用することで、経営者は自らのビジョンを追求し、新たなイノベーションを生み出し、他社との差別化を図ることができるのです。

まとめ

このブログでは、ChatGPTが中小企業経営者にとっていかに大きな機会を提供しているかを探りました。「AIの民主化」により、高度な技術がこれまで手の届かなかった中小企業にも開かれ、経営の効率化、創造性の向上、戦略的思考の促進が可能になっています。

しかし、AIとの協働の成功は、現実的な期待を持ち、その機能をビジネスプロセスに適切に組み込むことにかかっています。ChatGPTをパートナーと見なし、情報提供者以上の役割を期待することで、ビジネスチャンスを切り開き、競争優位性を築くことができるでしょう。

ChatGPTは「明日のExcel」です。この先進的なツールを活用し、ビジネスの可能性を拡大していただきたいと思います。

 

社長業専念コンサルタント 横山 一成

社長業専念コンサルタント 横山 一成

「経営者の志をリスペクトし、その具体化を通じて、お客様や働く仲間もワクワクする会社へ磨き上げるサポートをする」を理念に、社長業専念コンサルティング、企業改革・業務改善等の経営コンサルティング、従業員向け研修を実施している。

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