時間管理で変革を導く:業務改革への視点

前回のブログでは、人生をより充実させるためには、時間管理マトリクスの「第2領域」(緊急ではないが重要なこと)に焦点を当てることの重要性、および第2領域の活動に効果的に時間を割り当てるための思考法と実践方法を紹介しました。その内容はこちらからご覧いただけます。

この「第2領域」へのフォーカス、つまり「緊急ではないが重要なこと」に注力することは、個人の生産性を高めるだけでなく、企業の業務改革においても非常に有効です。本ブログでは、ゼロ・ベース思考を駆使して第2領域への集中をどのように実現し、業務改革を進めるかについて詳しく掘り下げます。

1.「第2領域」に時間を使うためには

「第2領域」とは、緊急ではないが重要なことに焦点を当てることを意味します。これには、計画立案、予防策の実施、能力の開発、関係性の構築などが含まれます。これらの活動は直ちに結果をもたらさないものの、長期的な成功と充実感には欠かせません。私たちは、日々緊急な仕事に追われがちですが、真の成長と革新は第2領域の活動に集中することで達成されます。

「第2領域」により多くの時間を使うための実践テクニックとして、前回のブログでは「主体的に行動する」ことをご紹介しました。これは、緊急だが重要ではない「第3領域」の活動や、重要でも緊急でもない「第4領域」の活動に対しては、勇気を持って「ノー」と言い、貴重な時間を自分にとって本当に大切なことに集中させるというものです。

2.経営リソースの解放という視点

この考え方を組織の業務見直しにどのように応用すれば良いのでしょうか?個人の場合と同様に、重要でない業務から、人・モノ・金といった経営リソースを解放することから始めます。その後、解放されたリソースを、付加価値の高い仕事へシフトさせるわけです。

ピーター・ドラッカーは「イノベーションの戦略の一歩は、古くなったもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に廃棄することだ」と述べ、「イノベーションを追求する組織は、昨日を守るために時間とリソースを費やさず、昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいものに解放できる」と言っています。

イノベーションやリーダーシップが「新しいことを始める」ことで評価されることが多いですが、それは違います。「捨てる」「やめる」ことを決めることができる人こそが、真の創造性を持つリーダーです。

リーダーには、無駄なものを削ぎ落とした上で、「集中とは何か、本当に意味のあることは何か、最も重要なことは何か」という観点から、自ら時間と仕事に関する決定をする勇気を持つことが求められるのです。

3.「ゼロ・ベース思考」の問いかけ

この文脈では、「ゼロ・ベース思考」が極めて有効な手法となります。これは、既存の事業や業務プロセスを根本から見直し、実際に価値がある活動へ資源を再配置するアプローチです。

「これまでこの活動を行っていなかったとして、今日これから、この製品、市場、流通チャネル、技術に取り組むだろうか?」と自問自答し、仕事の必要性を再評価するのです。もし答えがノーであれば、どうやってその製品、市場、流通チャネル、またはスタッフ活動に投じられている資源の浪費を止めるかを検討しなければなりません。

インテルのメモリ事業撤退

インテルがメモリ事業から撤退したことは、経営学の世界でよく引き合いに出される歴史的な転換点です。この決断の中心にいたのは、当時のCEOアンディ・グローブでした。彼は、企業が直面している厳しい現実と変化の必要性を認識し、画期的な決断を下しました。このセクションでは、その背景とこの決断がインテルにとって何を意味していたのかについて掘り下げます。

背景: インテルの挑戦

1970年代後半から1980年代にかけて、インテルはメモリチップ市場で世界をリードしていました。しかし、日本の競合他社が高品質で低価格のメモリ製品を大量に市場に投入し始めると、インテルは厳しい価格競争に直面しました。この競争は利益率の低下と市場シェアの喪失を引き起こし、インテルのメモリ事業は持続不可能な状態に追い込まれました。

アンディ・グローブの自問自答

アンディ・グローブは、この危機的な状況を打開するために、根本的な問いを投げかけます。「もし、取締役会が新しいCEOを任命したとして、新CEOが最初に行うのは何だろうか?」という自問自答を通じて、グローブはインテルがメモリ事業に固執する理由がもはやないことを悟りました。彼は、新たなCEOならば感情に囚われることなく、非効率なメモリ事業から撤退し、より有望なプロセッサ事業に注力するだろうと結論付けました。

決断の実行とその影響

この自問自答に基づき、グローブとインテルの経営陣は、メモリ事業からの撤退と、マイクロプロセッサ事業への集中転換を決断します。この決断は容易なものではありませんでした。インテルにとってメモリは創業以来の事業であり、多くの従業員の労力と情熱が投入されていたからです。しかし、この転換は、後にインテルを世界最大のマイクロプロセッサメーカーへと押し上げることになります。インテルはパーソナルコンピュータ革命の中心的役割を果たし、その後も技術革新の先頭を走り続けることになりました。

教訓: ゼロ・ベース思考の力

アンディ・グローブのエピソードから学べる最大の教訓は、ゼロ・ベース思考の力です。過去の成功に囚われることなく、現状を客観的に評価し、事業の本質的な価値を見極める勇気が、企業を未来へと導く鍵であることを、この歴史的決断は示しています。グローブの決断は、ビジネスリーダーが変化を受け入れ、果敢に新たな道を切り開く重要性を教えています。

4.サンクコスト

ゼロ・ベース思考による見直しは、組織の効率化や競争力を強化するために不可欠ですが、実際には多くの障害が存在します。特に、サンクコスト(過去に投資した費用で回収不可能なもの)は、ゼロ・ベース思考の実施を難しくする主要な要因の一つです。サンクコストは、既に発生してたコストであり、理論的には将来の意思決定に影響を与えるべきではありません。しかし、実際の意思決定プロセスでは、この「沈没した費用」が心理的な負担となり、新たな方向への転換を妨げることがあります。

コンコルドの事例

コンコルドのプロジェクトは、サンクコストが意思決定にどのように影響を与えるかの典型例です。イギリスとフランスが共同で開発したこの超音速旅客機は、技術的には高い成果を達成しましたが、経済的には成功とは言えない結果に終わりました。開発途中からプロジェクトの採算性に疑問が投げかけられたにもかかわらず、両国政府は既に巨額の開発費が既に投じられてた(サンクコスト)という理由で、プロジェクトを中止することができませんでした。この結果、さらなる資金投入を招き、経済的に不利な状況を悪化させました。

この事例では、既に投資した費用に対する心理的な囚われが、さらなる資金投入という結果につながり、最終的には経済的に不利な状況をさらに悪化させました。ゼロ・ベース思考での見直しを行う際には、このようなサンクコストの罠を避け、将来の利益とコストだけを基準に意思決定を行うことが求められます。

サンクコストとの向き合い方

サンクコストに囚われずにゼロ・ベース思考で意思決定を行うためには、以下の点が重要です。

      • 過去の投資を未来の意思決定から切り離す: 既に発生したコストは回収不可能であることを認識し、将来の選択を左右させないようにします。
      • データと事実に基づく分析: 感情や先入観に流されず、客観的なデータと事実に基づいて意思決定を行います。
      • 柔軟な思考の促進: 新たな情報や状況の変化に応じて計画を見直す柔軟性を持ち、固定観念に囚われない文化を組織内に育てます。

サンクコストは、ゼロ・ベース思考での見直しを困難にする大きな障壁ですが、これを克服することで、より合理的で効率的な意思決定が可能になります。コンコルドの事例は、過去の投資に対する執着がいかに危険な結果を招くかを示す貴重な教訓であり、ゼロ・ベース思考の重要性を際立たせています。

5.従業員の抵抗

新しい取り組みに対しては、従業員からの抵抗に直面することがよくあります。この抵抗は、不確実性に対する恐怖、既得権の喪失、あるいは変化への一般的な不安から生じることが多いです。変革を成功に導くためには、このような抵抗を理解し、適切に対応することが必須です。

従業員が新しい挑戦に抵抗する理由は多岐にわたりますが、主なものには以下のようなものがあります:

    • 不確実性への恐れ: 新しいプロジェクトや業務改革は、未知の結果を伴います。従業員は自分の仕事や将来の安定を求めているため、この不確実性が不安や恐れを引き起こすことがあります。
    • 快適ゾーンからの脱却: 人間は一般に、慣れ親しんだ環境やルーチンを好みます。新しいことに挑戦することは、この快適ゾーンから外へ出ることを意味し、これが抵抗の理由となることがあります。
    • スキルや適応能力への自信の欠如: 新しい技術や方法論を学ぶことに対する自信の欠如も、変化への抵抗感を生む大きな要因です。従業員は、自分が新しい環境で成功できるかどうかについて不安を感じる場合があります。

従業員が新しい挑戦に抵抗するのは、自然な反応です。組織としてこれを理解し、適切に対応することで、変革を成功に導くことができます。透明性の確保、参加の促進、そして教育とサポートの提供を通じて、従業員の抵抗を克服し、組織全体としての成長と革新を実現することができます。変化は困難かもしれませんが、適切な準備とサポートにより、これらの挑戦を乗り越えることができます。

6.トップしか決断できない

業務見直しのポイントはその仕事の「目的」と期待される「成果」にあります。しかしながら、これらを適切に判断できるのは、直接その仕事を行っている人ではないことが多いです。担当者にとっては、自分の業務として指示されていることですし、時間が経つ中で「自分の存在意義」となっていたりするからです。また、「こんな無駄な仕事をしていたのか!」と叱責される恐れもあります。従って、上層部や経営陣が仕事の目的や期待される成果を客観的に、批判的に検証する必要があります。

また、新たな取り組みを開始すること以上に、既存の取り組みを停止することには大きなリスクが伴います。このリスクを受け入れ、適切な判断を下すことができるのは、一般の担当者ではなく、組織の上層部や経営者です。組織内での意思決定権限と責任は、しばしばトップマネジメントに集中しています。彼らは広い視野で物事を見ることが求められ、時には難しい決断を下さなければなりません。このような決断は、組織の将来にとって重要な方向転換を意味することがあり、適切な判断が組織の成功を左右することになります。

7.赤字製品・事業の見直し事例

ゼロ・ベース思考を活用した業務改善の具体例として、赤字製品や事業の見直しの事例をご紹介します。ドラッカーは、以下のような状況にある製品や事業は、原則として直ちに中止すべきだと言っています:

    • 寿命がまだ数年あると言われているとき
    • 償却済みであることを理由に維持されているが、その価値や貢献が疑わしい場合
    • 古くからの製品、サービス、プロセス、市場が、新たに成功を収めるべきアイテムの障害となっている場合

重要なのは、事業が黒字であるか赤字であるかといった点ではなく、たとえ黒字であったとしても、直ちに中止すべきである事業があるということです。

「赤字」には、将来性が見込める良性の赤字と、そうでない悪性の赤字があります。全ての赤字事業や製品を即座に停止すべきではありません。これは、将来性や他事業との相乗効果を考慮する必要があるためです。赤字かどうかを判断する際には、限界利益を重視し、固定費の配分が適切かどうか、また事業撤退後の設備稼働率の問題も考慮する必要があります。

赤字製品や事業を停止することによって、「売上は20%減少するが、利益は30%増加する」という事例がしばしば見られます。赤字事業を停止できない理由として、経営者の売上高至上主義が挙げられることがあります。市場が成長期にあるうちは、市場シェアを確保する戦略が合理的です。しかし、市場が停滞期や衰退期に入った場合は、戦略の見直しが必要です。

「収支がトントン」である場合でも、事業に投じられている人的リソースの量を検討することが重要です。これには、営業員の労働時間、事務処理のコスト、クレーム対応、経営者の注力度などが含まれます。設備がまだ稼働可能であるかもしれませんし、従業員は自分の仕事がなくなることに強く反発するかもしれません。経営者自身にも、長年にわたる愛着があるかもしれません。しかし、企業の将来を見据えた決断を下すことが必要です。「資源の再配分」は、経営者にとっての重要な使命です。

まとめ

今回のブログで、時間管理のマトリクスの「第2領域」への集中という考え方を、組織の業務見直しにおける「何をするか」という点に焦点を当てて応用する方法について解説しました。ゼロ・ベース思考に基づく業務見直しを通じて、人・モノ・金といった経営資源を、自社の望む未来を創造する活動へシフトさせることが可能になります。

次回のブログでは、今回紹介したアイデアを活用して、「どのように」業務効率を向上させることができるのかについて詳しく語ります。実践的なツールやケーススタディを通じて、具体的な手法やアプローチを紹介する予定です。この情報が皆様のお役に立てば幸いです。

ご愛読ありがとうございます。次回の内容に対するご期待や、ご自身の経験や疑問を共有したい方は、ぜひコメント欄でお知らせください。皆様のフィードバックや質問をお待ちしています。

 

社長業専念コンサルタント 横山 一成

社長業専念コンサルタント 横山 一成

「経営者の志をリスペクトし、その具体化を通じて、お客様や働く仲間もワクワクする会社へ磨き上げるサポートをする」を理念に、社長業専念コンサルティング、企業改革・業務改善等の経営コンサルティング、従業員向け研修を実施している。

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