居酒屋のタッチパネルは、いつの間にか普通になりました。お店の都合で入った仕組みを、なぜお客は受け入れたのか。AIを入れようとしているいま、ここにヒントがあります。「時間短縮」には、2種類あるのです。
最初は、そっけないと思ったんです。
居酒屋のテーブルに置かれた、注文用のタッチパネル。店員さんを呼んで「とりあえず生を3つ」と言うほうが、店に来た感じがする。あれが並び始めた頃、私はそう思っていました。
いまはどうか。すっかり快適になりました。最近は、自分のスマホでQRコードを読んで注文するお店も増えています。
慣れたから、だけではありません。待たされないんです。そして、注文が忘れられることがなくなった。注文の履歴も、その時点での合計金額も、画面ですぐに分かります。
お店の側は、人手やコストを減らしたくて導入したのだと思います。でも、それはお客の側には関係のない話です。
それなのに、いつの間にか普通になりました。これは、なぜなのでしょうか。
AIを入れようとしているいま、ここにヒントがあると思っています。
1. お客が受け入れたのは、安いからではありません
ATMも、駅の券売機も、企業のFAQページも同じです。どれも、お客が自分で操作する仕組みです。
お客が受け入れたのは、コストが安いからではありません。
自分でやるほうが、自分の好きなタイミングで、待たずにできる。それが理由です。
窓口が閉まる時間を気にしなくていい。行列に並ばなくていい。店員さんが通りかかるのを待たなくていい。
Amazonも、そうです。自分で操作しなくてはいけません。でも、欲しいものがいくらで、いつ届くのかが、いますぐ分かります。
ただ、「待たない」だけではありませんでした。理由は、あと2つあります。
2. 説明しなくていい。そして、忘れられない
もう少し、自分の行動を振り返ってみます。
まず、説明しなくていいこと。
1回目は、人に教えてもらったほうが楽なんです。やり方がわからないのですから、当然です。
でも2回目以降は、やり方がわかっています。そうなると、「すみません、これとこれをこうで……」と説明する手間だけが残る。それが、純粋な負担になります。
だから、こうなります。
券売機も、ATMも、居酒屋の注文も、全部「2回目以降の行為」です。切符を買うのも、お金を下ろすのも、居酒屋で注文するのも、初めてではありません。だから置き換わりました。
逆に、1回目の行為は、置き換わりにくい。初めての街で道を聞く。初めて融資を受ける。初めて家を買う。このときは、人に聞きたい。
——人に頼む価値は、回数とともに減っていきます。
もう一つは、忘れられないことです。
人に頼んだ注文は、忙しい時間帯には、ときどき抜けます。タッチパネルなら、頼んだものは画面に残ります。「あれ、注文通ってます?」と聞かなくて済む。
ここまでをまとめると、お客が避けているものは3つです。
- 待たなくていい——相手の都合に、合わせなくて済む
- 説明しなくていい——一から伝える手間が、いらない
- 忘れられない——「あれ、注文通ってます?」が起きない
ここまで読んで、引っかかった方もいるかもしれません。「うちは、人の対応が売りなんだけど」と。
3. 「丁寧に扱われている感じ」と、「実際に丁寧に扱われること」
私が「そっけない」と感じたのは、間違った感覚ではありませんでした。
人が対応してくれるほうが、丁寧に扱われている感じがします。それは本当です。
では、実際はどうだったか。
人が対応していた頃、私は待たされていました。混んでいる時間帯は、手を挙げても気づいてもらえませんでした。そして注文は、時々忘れられていました。
「丁寧に扱われている感じ」と、「実際に丁寧に扱われること」は、別のものだったんです。
これは、そのまま自社への問いになります。
「うちは、人の対応が売りですから」——その”人の対応”は、お客様を待たせていませんか。忘れていませんか。
厳しい言い方でしたら、申し訳ありません。ただ、自社の現在地は、自社ではいちばん見えにくいというのが、支援の現場でいつも感じることです。
お客様は、素早い対応に慣れていっています。自社の対応は従来どおりでも、いつしか「あの会社の対応は遅い」と言われているかもしれません。
見積もりを丁寧に作り込んでいるうちに、お客様は返事の早い別の会社に決めていた。問い合わせへの回答を翌営業日に回しているうちに、お客様は自分でネットを調べて済ませていた。どこの会社にもある話です。
4. AIで作るのは、自分たちの効率化だけではありません
先日、ある居酒屋さんで、QRコードでの注文について、こう説明されました。
「ご注文があったら、いつでも声をかけてくださいね。でも、こちらが気がつかないときもあるので、そんなときはQRコードから注文してください」
とても上手だな、と思いました。
お店の側から見れば、人手を減らすための仕組みです。でもこの言い方なら、お客の側には「待たなくて済む方法を、もう一つ用意してくれた」と聞こえます。
自分たちのコスト削減のための施策として、見せない。この工夫は、いつも考えておかないといけないと思います。
そして、AIも同じです。
AIを入れるとき、多くの会社は「自分たちの仕事が、どれだけ楽になるか」から考えます。それも必要なことです。でも、お客様から見れば、関係のない話です。
「時間短縮」には、2種類ある。自社の仕事の時間と、お客様が待つ時間。前者はコストに、後者は顧客満足に効きます。
大事なのは、AIで「お客様にとっての良いこと」をどう作るかです。見積もりの返事が、その日のうちに届く。よくある問い合わせに、すぐ答えが返ってくる。頼んだものの状況が、聞かなくても分かる。
お客様が「待たなくていい」「説明しなくていい」「忘れられない」と感じたとき、その仕組みは、自然に普通になっていきます。タッチパネルが、そうだったように。
今日からできること
- ① お客様が「待たされている」場面を、3つ書き出す——見積もり、問い合わせ、担当者不在。思い当たった時点で、そこが弱点です。
- ② そのうち1つを、AIを使って「お客様が待たずに済む形」にできないか考える——無人化の話ではありません。お客様にとっての良いことを、1つ作れないか、というだけです。入れるときは、「人手が足りないので」ではなく、「お待たせしないために」と、お客様の側の言葉で伝えてください。
- ③ 「1回目」と「2回目以降」で、対応を分けられないか考える——初めてのお客様には、人が丁寧に。2回目からは、待たずに済む形を。同じ扱いにする必要はありません。
結論
- お客様が「自分でやる」を選ぶのは、安いからではない。待たされず、説明せず、忘れられないから
- 人に頼む価値は、回数とともに減る。だから2回目以降の行為から置き換わる
- 「時間短縮」には2種類ある。自社の仕事の時間はコストに、お客様が待つ時間は顧客満足に効く
ここまで読んで、不安になられたかもしれません。「では、うちの仕事は全部AIに置き換わるのか」と。
そうはなりません。置き換わるものと、残るものの間には、境界線があります。
次回は、その境界線を、誰がどう引くのかを書きます。そして、その境界線の上には、私の商売も乗っています。
参考・関連記事
- 拙稿「20万円で外注していた仕事、自分でできるようになりました」(本シリーズ第2回)
- 拙稿「AIを使うと、先送りが減らせます」(本シリーズ第3回)
- 本稿の体験・事例は、いずれも筆者自身のものです。
お客様を待たせない仕組みを、AIでつくるために
「シン・仕事術」セミナーでは、AIを仕事で使うやり方を、毎月、経営者の視点でお伝えしています。自社の効率化だけでなく、お客様にとっての良いことをどう作るか、一緒に考えませんか。