外注費の20万円は、ゼロに。1週間は、30分に。——セミナー受講者の方から聞いた話です。AIの効果は、まず「外注削減」という形で出ます。ただ、いちばんの変化は金額ではありませんでした。
「これ、もう外に出さなくていいですよね」
セミナーの受講者の方から、そう聞きました。インテリアデザイナーの方です。
CAD図から、プレゼン用のパース(完成予想図)を描く。この仕事を、これまでは外部に発注していました。1件20万円、仕上がるまでに1週間。
それがいまは、ご自分でAIを使って30分です。
外注費の20万円は、ゼロに。1週間は、30分に。
「それが丸々、自分の利益になるんです。めちゃデカいですよ」
——その日は、焼肉をご馳走になりました。
似た話は、ほかの受講者の方からも聞きます。あるメーカーの総務担当の方は、社内のパソコンサポートが生成AIで要らなくなり、真っ先に契約を終了したそうです。
別の会社では、チラシやPOPを、デザイナーさんにしょっちゅう発注していました。いまは、シンプルなものなら自分たちで作ります。生成AIの月額利用料をケチっていたのが嘘のようなコスト削減です。しかも、デザインの意図を伝える手間も、仕上がりを待つ時間も、修正のやりとりも減りました。
AIの効果は、まず「外注削減」という、いちばんわかりやすい形で出ています。ただ、話をうかがっていくと、その先にもう一つ、大きな変化がありました。
AIで、実際に何ができるようになったのか。今回は、その話です。
1. 外注費は、AIの効果がいちばん確実に数字に出る費目です
AIで浮いた時間が人件費に届くまでには、いくつも壁があります。1人の2割ぶんの時間が浮いても、人は減らせません。
外注費は、そうではありません。
やめれば、その月から減ります。埋め戻されることもありません。社内の反発も起きにくい——もともと外に払っていたお金を、払わなくなるだけですから。
冒頭のデザイナーの方の「丸々、自分の利益になる」は、まさにこのことです。
ただ、ここまではコスト削減の話です。あの方の話には、続きがありました。
2. 20万円かかるうちは、特別なときしか作れませんでした
外注していた頃、その方はプレゼン資料を、すべての案件では作っていなかったそうです。
1件20万円かけて、受注できなければ丸損です。だから、確度の高い案件、ここぞという案件にだけ絞っていました。
それが30分になり、外注費もかからなくなった。
すると、全部の案件で作れるようになりました。
増えたのは、提案の数です。決算書には「提案が増えた」という行はありません。でも、受注につながっているのは、こちらのほうです。
安くなったことより、コストを理由に諦めていたことまで、できるようになった。本当の効果は、ここにありました。
同じことが、私自身にも起きています。
当社では、セミナーを定期的に開いています。テーマを設計したあと、1回80枚ほどのスライドを作る。この工数が、いちばん重い部分でした。いまは、スライドのほぼ全部をAIが作ります。私は、手で直すだけです。お金ではなく、手間の話です。
1回あたりが軽くなって、変わったのは開催の回数だけではありませんでした。
準備のリードタイムが短くなると、扱えるテーマが変わります。以前なら間に合わずに見送っていた話題を、旬なうちに出せる。
相手に合わせて作り直せるようにもなりました。同じテーマでも、その会社の業種に合った事例に差し替える。使う言葉を、その現場の言い回しに変える。80枚が重かった頃は、「1つ作って使い回す」しかありませんでした。
手間を理由に諦めていたことが、ここでもできるようになっています。
とはいえ、良いことばかりではありません。
3. 外注をやめるときに、気をつけたいことが2つあります
ひとつ目。外注は、ゼロにはなりません。
なくなったのではなく、形が変わったというのが正確です。いまは「まずAIで8割つくって、必要なところだけ専門家に頼む」という流れになっています。
専門家に頼む部分は残ります。ただ、その範囲と金額が変わる。ここを「全部社内でできる」と早合点すると、品質の落ちた資料を出すことになります。
ふたつ目。戻ってきた仕事は、人が抱え込まずに、AIで仕組みにする。
外に出していた仕事が社内に戻れば、誰かの手元に、その作業が乗ります。
ただ、戻ってくるのは、たいてい定型的な仕事です。毎回ほぼ同じ手順で、同じ形のものを作る。
だからこそ、人の手で回し続けるのではなく、AIで仕組みにしてしまうほうがいい。手順を文字にまとめてAIに渡し、次からは一言で同じ仕事を頼める形にしておく。AIの世界では、これを「スキル」と呼びます。
ここを後回しにすると、「外注費が減った」と喜んでいるうちに、現場が疲れてしまいます。
4. 会社の「内と外」の線は、動くものです
そもそも、なぜ会社は仕事を外に出すのでしょうか。
理由は単純で、自分たちでやるより、外に頼んだほうが安く早いからです。逆に言えば、自分たちでやるほうが安く早くなれば、線は自然に内側へ動きます。
いま起きているのは、この線の移動です。しかも、中小企業ほど大きく動きます。もともと外に出していた範囲が広いからです。
大企業なら社内にデザイン部門があり、情報システム部門があります。中小企業にはありません。だから外に出していた。その部分が、いま戻ってきます。
「うちは人が少ないから」というのが、これまでは弱みでした。同じ条件が、いまは動きやすさになっています。
今日からできること
- ① 外に出している仕事を、5つ書き出す——金額と頻度も一緒に書いてください。年間いくら払っているかが見えます。
- ② そのうち1つを選んで、AIに一度やらせてみる——契約を切る判断ではありません。線がどこにあるかを確かめるだけです。
- ③ 戻ってきた仕事は、手順を書き出してAIに渡す——次から一言で頼める形にしておけば、社内の誰かが抱え込まずに済みます。
結論
- AI活用の効果は、人件費より先に「外注削減」という形で出る
- 外注費は、やめればその月から減る。埋め戻されない
- いちばんの変化は、金額ではない。コストを理由にできなかったことまで、できるようになったこと
ここまでは、外注が減った話でした。
次回は、私自身の話をもう一つ書きます。「やれたらいいな」と思いながら、何年もやらずにいたことが、動き出しました。実は、こちらのほうが大きかったんです。
参考・関連記事
- 拙稿「AIは「記憶頼り」から「記録ベース」に進化しました」(本シリーズ第1回)
- 拙稿「AIで効率化したのに、コストが下がらない理由」(0.2人工の壁)
- 拙稿「なぜ空いた時間は、別の仕事で埋まるのか」(パーキンソンの法則)
- 本稿の事例は、いずれも筆者のセミナー受講者の方から直接うかがったものです(業種以外の特定情報は伏せています)。セミナー準備に関する記述のみ、筆者自身の実例です。金額(1件20万円)と期間(1週間)は、ご本人の申告によるものです。
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