「うちにも資料はたくさんあるんです。ただ、誰も見ないんですよね」。もし「使える情報が足りない」と感じているなら、足りないのは情報ではなく、それを取り出す仕組みのほうかもしれません。
「うちにも資料はたくさんあるんです。ただ、誰も見ないんですよね」
経営者の方から、よく聞く言葉です。私はこれを聞くたびに、もったいないと思います。
資料は、会社が積み上げてきた資産です。でも、置いてあるだけでは、資産になっていない。もし「うちには使える情報が足りない」と感じているとしたら、足りないのは情報ではなく、それを取り出す仕組みのほうかもしれません。今日は、その「眠っている資産」を、どうやって使える形にするかの話です。
シリーズ2回目。前回は「全部AI化より、始点と終点だけ」、小さく始めて現場で動かす話をしました。今回はその続き、社内に眠っている情報を動かす番です。
「資料はある」と「使える」は、まったく違う
先日、ある会社でNotebookLMという、グーグルのAIツールを使った研修をやりました。
研修で最初にお伝えしたのは、こういうことです。共有フォルダに資料を置いてある。それは「保管されている」だけで、「共有されている」わけではない。
「あの対応マニュアル、どこでしたっけ」「たぶん共有フォルダにあると思うけど」「ファイル名、何でしたっけ」「結局、詳しい人に聞いた方が早いですね」
実際、現場ではこんな会話が、毎日のように起きています。探す時間、人に聞く時間、同じ説明を繰り返す時間。これらは、何の価値も生んでいません。前のシリーズで、トヨタが現場から「移動の無駄」を減らし続けた話をしました。資料を探すのも、同じ「無駄」です。
「資料はあります」と「使える状態です」は、まったくの別物です。
「探す」から、「聞く」へ
では、どうするか。発想を「探す」から「聞く」へ、切り替えます。
NotebookLMは、自社の資料を読み込ませると、その中身に「聞ける」ようになるツールです。「あの件、過去に似た問い合わせはあった?」「そのときどう対応した?」と、まるで詳しい先輩に相談するように、資料に話しかけられる。
研修では、実際にやってみました。たとえば、2時間もあるマイクロソフトの講演動画。ふつうなら、観るだけで一日仕事です。これをリンクを貼るだけで、要点をまとめ、自社に関係する部分だけを抜き出し、一枚の図解にしてくれました。
もう一つ、国が出している「インターネットの安全・安心ハンドブック」。100メガバイトを超える、200ページ近い分厚いPDFです。これも放り込むだけで、暗記用のカードや、理解度を測るクイズ、全体像のマインドマップにまで変えてくれました。読むのも大変な資料が、学べる教材に変わったんです。
ここで大事なのは、難しいプロンプトがいらないこと。資料を「置くだけ」で動きます。しかも、ネットの一般論で勝手に補わず、入れた資料だけを根拠に、出典つきで答える。ITが得意でない人にも、いちばん渡しやすいツールだと感じています。
1年で、読めなかったものが読めるようになった
「読めない資産」は、きれいな資料だけではありません。手書きに近い帳票も、そうです。
あるタクシー会社で、乗務日報をAIに読み込ませて、実績から走行ルートの戦略を立てられないか、という相談を受けました。
正直に言うと、1年ほど前なら「まだ難しい」と答えていたと思います。当時は、紙の帳票を読み取る精度が、実用に届いていませんでした。ところが、いま試すと、ちゃんと読める。この1年で、AIの読み取りは、はっきりと実用の域に入ったんです。
おもしろいのは、ここから先です。日報が読めるようになると、ボトルネックが移ります。「読む」ことではなく、「で、この数字から何が言えるのか」。つまり、示唆を出すところが、次の勝負どころになります。
日報を読むのはAIに任せられる。でも「この稼働パターンなら、この時間帯にここを流した方がいい」と意味を読み取るのは、現場を知る人間の仕事です。
独立研究者の山口周さんは、AIが正解を返す時代に人間に残る価値は「意味づけ」だと言います。読み取りをAIに渡したぶん、人は示唆を考えることに集中できる。これが、資産を活かすということです。
まず何から始めるか
- ステップ1:「よく聞かれること」を1つ選ぶ(5分)——最初から全社の資料を入れる必要はありません。毎月よく聞かれる問い合わせや、ベテランに確認が集中する内容を、一つ選んでください。そこが入口です。
- ステップ2:関係する資料を「置くだけ」で試す(15分)——その一件に関係するマニュアルや過去の対応記録を、NotebookLMに入れて、中身に質問してみてください。きれいに整理してからでなくて大丈夫です。
- ステップ3:「残す→読ませる→聞く→活かす」を回す(継続)——日々の問い合わせ対応の記録を残し、AIに読ませ、次の対応で聞いて、活かす。問い合わせ履歴は、過去の記録ではありません。未来の対応を助ける、知的資産です。
完璧な仕組みより、小さく回る仕組みから。
結論|置くだけでは、知識にならない
- 「資料はある」と「使える状態」は別物。探す時間は価値を生まない——発想を「探す」から「聞く」へ変える
- 2時間の動画も、100メガバイト超のPDFも、手書きに近い日報も、いまのAIは「読める」。この1年で読み取りは実用の域に入った
- 読み取りをAIに渡すと、ボトルネックは「読む」から「示唆を出す」へ移る。意味づけは、現場を知る人間の仕事
社内資料は、AIが参照し、現場が使える形になって、初めて組織の知識になります。置いてあるだけの資産を、使える資産に。これは、新しい投資ではなく、すでに持っているものを活かす話です。
次回予告
第3回は「AIは動いた。でも契約は止まった」をお届けします。AIで業務が動くようになったのに、なぜプロジェクトが止まるのか。ある案件の打ち切りから見えた、「動く」と「儲かる」の間にある深い溝と、経営者がPoC(実証実験)で最初に見るべき数字の話をします。
参考・根拠資料
- 「シン・仕事術」セミナーおよび支援先での研修・対話(筆者の観測範囲より。NotebookLM研修、タクシー会社の乗務日報の事例を含む)
- NotebookLM(Google)の機能(資料の要約・対話、インフォグラフィック・スライド・マインドマップ・フラッシュカード・クイズ等のStudio機能)
- 「インターネットの安全・安心ハンドブック」Ver5.10(2025年3月改訂。公表当時の発行はNISC=内閣サイバーセキュリティセンター、現在は国家サイバー統括室が承継)
- 山口周氏のAI論(AI時代に人間に残る価値は「意味づけ」)より
NEXT STEP
眠っている社内資料を、「聞ける知識」に変えませんか
「シン・仕事術」セミナーでは、NotebookLMをはじめとしたツールを実際に動かしながら、自社の資料を使える資産に変える手順を体験いただけます。新しい投資ではなく、すでに持っているものを活かす話です。
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