「あの資料、どこだっけ」。ツールは便利になったのに、探す時間だけが増えている。その正体は、情報が「流れたまま」になっていることにあります。AIが思うように動かない理由も、実は同じ場所にあります。
「あの資料、どこだっけ」。この一言を、一日に何回つぶやいているでしょうか。
チャットもメールも共有フォルダも、どれも便利になったはずなのに、探す時間だけがなぜか増えています。そう感じている方は、決して少なくないと思います。
今日は、その正体についてお話しします。8月26日の「シン・仕事術」セミナーで扱うテーマの、前半部分です。
川に飛び込んで、魚を探していないか
情報には、2つの種類があります。
一つは、流れていく情報。チャットのやり取り、メールの往復。日々どんどん流れていって、後ろへ押し流されていくものです。もう一つは、貯まっていく情報。整理されたファイル、手順書、記録として残された台帳。置き場所が決まっていて、後から取り出せるものです。
前者をフロー、後者をストックと呼びます。
多くの会社で起きているのは、フローの中を毎回泳ぎ回っている状態です。過去のやり取りに埋もれた資料を、チャットか、メールか、いや別のツールだったかと、あちこち探しに行きます。以前、ある会社の方がこれを「流れている川に飛び込んで、魚を銛で刺しに行くようなものだ」と表現していました。うまいな、と思いました。
しかも厄介なのは、見つけた瞬間に何かが前進したわけではないことです。ようやくスタートラインに立てただけです。探している時間そのものは、何も生んでいません。付加価値は、ゼロ円です。
AIが「思うように動かない」のも、同じ理由です
もう一つ、最近よく聞く声があります。「AIに任せたいのに、なぜか自分の思うようには動いてくれない」というものです。
これも、実は同じところに原因があります。
AIが自分らしく動くためには、参照できる「貯まった情報」が要ります。会社のルール、過去の判断、これまでのやり方。そうしたストックがどこにもなければ、AIは毎回、白紙の状態から推測するしかありません。
新入社員に「あとはよろしく」とだけ言って、引き継ぎ書を渡さずに送り出すようなものです。どれだけ優秀な人でも、前提を渡されていなければ、的外れな判断をしてしまいます。
AIが「あなたらしく」動かないのは、AIの性能の問題ではありません。渡せる資産が、まだないだけなんです。
泳ぎに行くのをやめて、ダムをつくる
では、どうするか。発想を、少しひっくり返してみます。
毎回、川に飛び込んで探しに行くのではなく、流れの途中に「ダム」をつくって、必要なものだけが貯まるようにしておきます。フローを、AIが使えるストックに変えてしまう、という考え方です。
ここで、たいていの方はこう思います。「情報は貯めろ、なんて、言われなくても知っている」と。
そのとおりです。というより、貯めること自体は、すでに皆さんやっているはずです。人に言われたことをメモに書く。やることをToDoリストに書き出す。見つけたサイトをお気に入りに登録する。呼び方が違うだけで、どれも「流れていく情報を、どこかに書き留めておく」という行為です。
私自身も、何度も試しました。フォルダを作り、ルールを決め、台帳をつくりました。でも、続きませんでした。面倒くさいからです。
ただ、今にして思えば、理由はそれだけではありませんでした。面倒に見合うだけの、見返りがなかったのです。
貯めるところまでは、誰でもできます。難しいのは、そのあとです。後から取り出そうとすると、結局は検索に頼るしかありませんでした。しかも検索するには、「そこに何かを置いたこと」を覚えていて、なおかつ「そのときの言葉」を思い出せる必要があります。どちらも、自分の記憶頼みです。
忘れないために書いたのに、書いたことを忘れたら使えません。ずっと、この矛盾を抱えていました。
お気に入りに登録したまま、二度と開いていないページが何百件も残っている。そんな覚えはないでしょうか。世の中には、フォルダで分ける、タグを付ける、せめて日付順に並べる、といった工夫が山ほど生まれてきましたが、どれも「人間の側が、探しやすいように整理する」努力でした。
つまり、貯めても取り出せないなら、貯める作業は持ち出しにしかなりません。だから、いつも三日で止まりました。怠けていたわけではなく、道具のほうが足りていなかったのだと思います。
でも、そこにAIが入ると、話が変わります。
私は、AIに「ネタ帳」を持たせています
私が実際にやっていることは、大げさなものではありません。
気になった記事や、ふと思いついたことを、専属の担当AIに、そのつど投げておきます。それだけです。あとはAIが勝手に整理して、私のネタ帳として蓄積してくれます。実際、この記事のもとになった考えも、そうやって貯まったものの一つです。
もう一つ、ゆるくやっていることがあります。毎日の細かい情報を、メモアプリのその日の欄に、分類もせず、とにかく放り込んでおきます。あとから引き出せればいい、くらいの感覚です。
検索は、思い出せる人のための道具でした。いまの道具は、思い出せない人のためにあります。
以前なら、こんな放り込み方をしたら二度と見つかりませんでした。それが成り立つようになったのは、探し方のほうが変わったからです。正確な言葉を入れなくても、「たしか、会議が無駄だという話を読んだ」くらいの曖昧さで引き出せます。
どちらにも共通しているのは、貯める作業に頭を使っていない、ということです。整理は、あとでAIに任せればいいのです。人間がやるのは、投げておくというひと手間だけです。だから、続きます。
会社の仕組みとしても、同じことができます。一日分のやり取りをAIに読ませて、決まったことと資料のリンクだけを抜き出し、決まった場所に書き出しておく。ファイルそのものは、今ある場所に置いたままで構いません。大事なのは、どこに何があるかの地図を、一箇所につくることです。
ただし、全部貯めると失敗します
ここで、一つだけ注意があります。
「じゃあ全部貯めよう」とすると、これはこれでうまくいきません。何でもかんでも貯めると、ゴミも一緒に集まります。結局、ストックをかき分けて探すはめになります。
大事なのは、ダムにフィルターをつけておくことです。何を貯めて、何を流したままにするか。どこに、どんな名前で貯めるか。誰がそれを見るのか。この「メッシュ」を先に決めておかないと、AIに任せても、欲しいものだけが貯まる状態にはなりません。
そして正直に言うと、このメッシュを決めるところが、いちばん難しいところです。文章を読んで頭で理解しただけでは、なかなか身につきません。自分の業務を思い浮かべながら、実際に手を動かして初めて「ああ、こういうことか」と腹に落ちる種類の作業です。
しかも、ここだけは人間の仕事です。一度決めてしまえば、あとの維持はAIが引き受けてくれます。
まず何から始めるか
- ステップ1:今日「探した」場面を1つ書き出す(5分)——今日一日を振り返って、「あれ、どこだっけ」と手が止まった場面を1つ思い出してください。それが、あなたの川の中でいちばん流れの速いところです。
- ステップ2:それが、どこに貯まっていれば良かったかを考える(5分)——その情報が、どんな形で、どこにあれば探さずに済んだか。答えは出さなくて構いません。考えてみるだけで、メッシュの輪郭が見えてきます。
- ステップ3:気になったことを、AIに一言投げてみる(1分)——今日ひとつ、面白いと思ったことをAIに送っておきます。それだけです。貯まり始めるのは、そこからです。
完璧を目指す必要はありません。まず一つ、投げてみてください。
8月26日、実際に手を動かします
今回のセミナーは、話を聞いて終わりにしない回にしました。
私が普段やっている「フローをストックに変える仕組み」をまるごと公開したうえで、参加される方ご自身のフィルターのメッシュを、その場で1つ設計していただきます。何を貯め、何を流すか。ご自身の業務に当てはめて持ち帰っていただくことが、今回のゴールです。
- 日時:2026年8月26日(水)18:30〜21:00
- 開催形式:オンライン
- 参加費:5,000円(税込)※初参加の方は3,000円(税込)
- ご準備:ノートPC(ChatGPTの有料アカウントを推奨。当日ログインできる状態で)
情報を「探せる人」は、いくらでもいます。情報を「貯めて、AIに渡せる人」は、まだ少数です。この差は、今はまだ小さく見えるかもしれません。ただ、半年後、一年後に「任せられる人」と「探し続ける人」の距離がどれだけ開いているか。それは、今日「探す」をやめて「貯める」に切り替えるかどうかで決まっていくのだと思います。
情報は、探すな。待ち受けろ。
次回予告
次回は、実際にこの仕組みが動いている現場を2つご紹介します。Faxの山をAIにさばかせている専門商社と、私自身が毎朝続けている習慣の話です。
NEXT STEP
8月26日、あなたの「フィルターのメッシュ」を一緒に設計します
「シン・仕事術」セミナー第25回では、フローをストックに変える仕組みをまるごと公開したうえで、ご自身の業務に当てはめたメッシュを、その場で1つ設計していただきます。聞いて終わりにしない、持ち帰れる回です。
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