「記憶に基づいて回答する部下と、メモをとって確認しながら仕事を進める部下。どちらを信頼しますか?」——AIが次々に新しくなるいま、どのAIを選ぶかより大事なのは、うまくいったやり方を「記録」に残しているかどうかです。新シリーズ「AIで、うちは何ができるようになったか」第1回。
「記憶から記録に変わったんですよ」
セミナーやクライアントとの打ち合わせで、最近「面白い」と言っていただけるのが、この一言です。
続けて、こう聞きます。
「記憶に基づいて回答する部下と、メモをとって確認しながら仕事を進める部下。どちらを信頼しますか?」
AIの話をしているのに、部下の話に聞こえたかもしれません。でも実は、これが「どのAIを使えばいいのか」という迷いへの、私なりの答えです。
2026年9月、3週間で主要3社が動きました
AIを自社の業務に差し込み、現場が使い、改善していく。そうやって、自社だけの資産に育てていきましょう——私は、ずっとそうお伝えしてきました。
ところが2026年9月、こんなことが続きました。
ClaudeとChatGPTが、相次いで新しいモデルを発表しました。Googleにも、次のモデルが近いとみられる動きが報じられています。わずか3週間のことです。ChatGPTだけを見ても、ここ半年はほぼ2か月おきに新しいモデルが出ています。
こうなると、経営者の方が不安になるのは当然です。「どれを選べばいいのか」。そしてもう一つ、「せっかく育てた資産は、AIを乗り換えるたびに消えてしまうのではないか」。
消えません。記録にしておけば。
今回から、新しいシリーズ「AIで、うちは何ができるようになったか」をお届けします。第1回の今回は、その土台になる話です。次回からは、AIで実際に何ができるようになったのかという現場の話、そしてなぜそれが起きているのかを書いていきます。最終回で、もう一度この「記録」の話に戻ってきます。
1. 1つを使い込み、記録に残す。乗り換えはAIに頼む
私がお勧めしているのは、次の3つです。
- どれか代表的なAIを1つ選んで、使い込む
- うまくいったやり方を、AIの「記憶」ではなく、読める文字の「記録」に残す
- 乗り換えるときは、その記録ごと、新しいAIに移してもらう
3つ目は、やってみると簡単でした。
私は、ClaudeというAIで、スライドを自動で作る仕組みを組んでいました。最近、この仕組みを、ChatGPTの会社(OpenAI)の「Codex」というAIへ引っ越しました。Codexは作業を任せるタイプのAIで、画像を作る機能を、はじめから備えていたからです。いまは、ショート動画づくりも、Codexにつなぎ込んでいます。
新しいAIに頼んだのは、一言だけです。
「このフォルダはClaudeに作ってもらったプロジェクトです。内容を理解してから移植して」
これで、移せました。
では、なぜ一言で引っ越せたのか。
2. なぜ引っ越せるのか——「記憶頼り」から「記録ベース」へ
少し前までのAIは、会話の中で覚えたことを、そのAIの中に「ふわっと」記憶していました。中身は見えにくく、ほかのAIへそのまま持っていくこともできません。そして話が長くなると、古いものから忘れていきます。
いまのAIは違います。指示や手順、会社の前提を、AI自身がファイルに書き出して「きちっと」記録するようになりました。仕事を始める前にその記録を読み、確かめながら進めます。
冒頭の、2人の部下を思い出してください。
記憶で仕事をする部下が異動したら、その人の頭の中にあったものは、一緒に持っていかれます。メモをとって仕事をしている部下なら、そのメモを後任に渡せます。
AIも同じです。記録は文字なので、次のAIも読めます。私の引っ越しが一言で済んだのは、仕組みの中身が、はじめから記録として残っていたからでした。
AIの中の「記憶」は、乗り換えると消える。読める文字の「記録」は、そのまま引っ越せる。
しかも、各社のAIは、どれも同じ方向に進んでいます。自分で作業を進める形になり、前提をどれだけ渡せるかで結果が変わる。どのAIを選んでも、記録の価値は上がっていく一方です。
3. いま、実際に引っ越しが始まっています
身近なところで、もう引っ越しは始まっています。
ChatGPTで、業務ごとに専用のアシスタントを作れる「カスタムGPT(GPTs)」。これが、2026年12月11日で終了すると案内されました。
私はこれまで、セミナーでGPTsを数多くプレゼントしてきましたし、研修でも「業務をGPTsにしましょう」とお勧めしてきました。ですから、この知らせは他人事ではありません。
中身を確かめると、GPTsは「プラグイン」という新しい形に引っ越します。GPTsに書いた指示文は、プラグインの中の「スキル」に、添付していた資料は、プラグインの参照資料に引き継がれるそうです。
GPTsの指示文は、もともと読める文字で書かれていました。つまり、はじめから「記録」だったのです。書いてあったから、引っ越せる。
ただし、移行は自動ではありません。本人が設定画面から「プラグインへ移行」を選ぶ操作をする必要があります。下書きのまま公開していない変更や、過去の会話は移らないとされています。具体的な手順は、個人向けの移行機能が出そろった段階で、改めてお知らせします。
4. 「どれがいいか」を比べる時間が、いちばんもったいない
ゴルフで考えてみてください。テーラーメイドのクラブを使うのが上手くなる人は、いません。上手くなった人は、きっと他のメーカーのクラブでも上手です。そして、メーカーごとの違いに気づけるのも、1本を使いこなしたからです。
AIも同じです。1つを使い込んで身につくのは、そのAIのクセではありません。「自分の仕事を、AIで進めるやり方」です。これは、どのAIに乗り換えても持っていけます。
一方、比べるばかりで使い込んでいないと、違いがわかりません。違いを見分ける物差しが、自分の中にまだないからです。そのうちに、比べていた相手が2か月で入れ替わります。
使い込むほど記録が増え、記録が増えるほど、乗り換えは楽になります。
今日からできること
- ① 今月使うAIを、1つに決める(1分)——迷ったら、いちばん触っているものでかまいません。比べるのは、使い込んでからで十分です。
- ② GPTsやGemを使っているなら、指示文をコピーして保存する(5分)——設定画面を開き、指示文を丸ごとコピーして、ファイルとして手元に置いてください。これだけで、どのAIにも持っていける記録になります。使っていなければ、ここは飛ばして構いません。
- ③ 乗り換えたくなったら、新しいAIにこう頼む——チャット画面で使っているなら、保存しておいた指示文を貼り付けて、こう打ってください。
「これは、別のAIで使っていた指示文です。内容を理解してから、ここで同じように使える形に直してください」
直した指示文で、前と同じ仕事を1回やらせてみてください。前と同じように仕上がれば、引っ越しは完了です。
結論
- AIは次々に新しくなる。どれがいいかで迷う時間が、いちばんもったいない
- 1つを使い込んで身につくのは、そのAIのクセではなく、自分の仕事をAIで進めるやり方。これはどのAIにも持っていける
- AIの中の「記憶」は乗り換えると消える。読める文字の「記録」は、そのまま引っ越せる
AIは新しくなっていきます。でも、記録は引っ越せます。
次回予告
では、AIで実際に、何ができるようになったのか。
次回は、「20万円で外注していた仕事、自分でできるようになりました」という話から始めます。
参考・根拠資料
- 「シン・仕事術」セミナーおよびクライアントとの対話(筆者の観測範囲より)/筆者自身のAI移行の実体験
- OpenAI ヘルプセンター「Custom GPT retirement and migration FAQ」(カスタムGPTの2026年12月11日終了、プラグインへの移行(指示文はプラグイン内のスキルに、資料は参照資料に)、移行は手動、下書き・会話は移らない)<https://help.openai.com/en/articles/20001519-custom-gpt-retirement-and-migration-faq>
- OpenAI「GPT-6 Astra」発表(2026年9月3日)に関する各種報道より(CNBC ほか)
- ChatGPTの主要モデルの公開時期(GPT-5.4:2026年3月、GPT-5.5:同4月、GPT-5.6:同6〜7月)に関する公開情報より
- Anthropic「Claude Fable 5.1」公開(2026年9月1日)に関する報道より
- Googleの次期モデルとみられるAIが評価サイトに匿名で登場したとの報道(2026年9月中旬)より。Googleの公式発表は、執筆時点で確認できていません
NEXT STEP
AIが変わっても残る、自社のやり方を育てるために
「シン・仕事術」セミナーでは、AIを仕事で使うやり方を、毎月、経営者の視点でお伝えしています。1つを使い込み、記録に残す——その進め方を、一緒に考えませんか。