AI活用の差はITスキルではなく好奇心——「問いを持ち続ける人」だけが使いこなす理由

「AI活用が上手い社員はITが得意な人」——その思い込みこそが、研修に投資しても社内に定着しない最大の理由かもしれません。使いこなしを分けるのはITスキルではなく、問いを持ち続け試し続ける「好奇心」です。AIを使いこなす人の条件シリーズ第3回は「好奇心」です。

前回(第2回)は「フロー設計」について取り上げました。AIへの指示を「単発タスク」ではなく「仕事のフロー全体」として設計することで、アウトプットの精度が変わるという話でした。今回は、そのフロー設計をどんどん試せる人と、なかなか試せない人の差がどこから来るのかを探ります。

「ITが得意な人が使いこなす」という誤解

社内でAI活用が二極化するとき、多くの経営者はこう診断します。「あの社員はデジタルに強いから使いこなせる。この社員はアナログ型だから使えない」と。しかし、観察を続けると、その説明では割り切れない事実が出てきます。

エクセルを縦横無尽に使いこなすベテランがAIをまったく活用しない一方で、スマホ操作すら人に頼んでいた社員がAIを積極的に試している——という光景です。なぜこの逆転が起きるのか。IT習熟度の高い社員には「仕組みを理解してから使う」という習慣があることが多く、「まだよくわからないから待つ」という判断をしやすいのです。一方、技術に疎い社員は「試してみないとわからない」という姿勢でとにかく触り続け、自分なりの使い方を発見していきます。

AIを使いこなすかどうかを分けるのは、技術力ではなく「試し続けるかどうか」です。そしてその行動を生み出すのが、好奇心です。

好奇心とは何か——「問いを持ち続ける力」

好奇心とは「現状に対して問いを持ち続け、答えを探そうと動く力」と定義したいと思います。なぜこの定義が重要なのか。AIは「問いを持つ人」に力を発揮するからです。AIに何かを頼むためには、まず「自分は何を知りたいのか」「何を解決したいのか」という問いが必要です。問いがなければ、何をAIに頼めばいいかわかりません。

逆に好奇心が強い人は、「これ、AIに聞いたらどうなるだろう」と常に試みます。うまくいかなくても「なぜうまくいかなかったのか」を考え、次の問いに変換します。この繰り返しが、使いこなしの熟練につながっていくのです。

ただし、一つ大切な区別をしておきたいと思います。「好奇心が大切」と聞くと、「最新のAIツールをどんどん試すべきだ」という話に聞こえるかもしれません。しかし、それは違います。新しい「おもちゃ」に目移りすることと、好奇心は別物です。

新しいツールが出るたびに飛びついて、すぐに次のツールに移る——これは「目新しさへの反応」であって、仕事に根ざした好奇心ではありません。本当の好奇心とは、「このお客さんへの提案、もっとうまく届けたい」「毎月の報告書、なんとか負担を減らしたい」——こうした自分の仕事の課題から出発する探求心のことです。ツールが目的になると、試行錯誤が「消費」になります。自分の問いが目的になると、試行錯誤が「成長」になります。

KEY INSIGHT

好奇心は「AIとの対話を続ける燃料」だ。新ツールへの目移りではなく、自分の仕事の課題から出発する問いこそが、半年後・一年後の使いこなしの差を生む。

「怖れ」が好奇心を潰す

好奇心を阻むものがあります。それが「怖れ」です。「間違ったことを言ったらどうしよう」「変なことを入力したら情報が漏れるのでは」「使い方が違ったらみっともない」——こうした怖れが、試す前に止まってしまう原因になっています。

特に経営者においては、「失敗を見せてはいけない」という意識が働くことがあります。組織の中でリーダー的な立場にある人ほど、試行錯誤している姿を見せることに心理的な抵抗を感じやすい。結果として「完全に理解してから使う」という方針をとり続け、永遠に使い始めないという状況に陥ります。

AIは、失敗に対してきわめて寛大なツールです。間違った質問をしても怒りません。AIとの対話は「失敗しても安全な実験場」です。

尾原和啓さんは「リーズニング×エージェンティック×音声認識の3つのギアが噛み合ったいまこそ、AIを本格的に試すべきタイミングだ」と指摘しています。怖れを抱えたまま静観を続けることは「安全策」ではなく「機会の損失」になりはじめています。今が試し始めるタイミングです。

好奇心を「習慣」に変える——「問い日記」という方法

好奇心は、鍛えることができます。日常業務の中で「小さな問い」を持つ習慣を作ることが、AIを使いこなす土台になります。

私が実践しており、セミナー参加者にも勧めているのが「問い日記」という方法です。毎日業務が終わるときに、「今日の業務の中で、こうなったら面白いのに、と思った瞬間はどこだったか」を1つだけ書き留めます。

内容は問いません。「あの資料整理、もっと早くできないかな」でも「あの提案書、もっとわかりやすくできたはず」でも構いません。重要なのは「現状に対してモヤモヤを感じ、そのモヤモヤを言葉にする」という作業そのものです。この習慣が身につくと、翌朝「昨日のあの問いをAIに投げてみよう」という行動が自然に生まれます。

ある小売業の経営者が実践してくれた例です。その方は毎朝5分、「今週の店舗運営で自分が迷っていること」を箇条書きにして、それをそのままAIに投げる習慣を始めました。最初は「AIに何を聞けばいいかわからない」とおっしゃっていたのが、問いを先に書くことで、AIへの依頼が自然に決まるようになったとのことです。

KEY INSIGHT

問いが先、AIが後——この順番を意識することが、好奇心とAI活用を結びつけるカギだ。問いがなければ、AIは眠ったままになる。

まず何から始めるか:今すぐできる3ステップ

  • ステップ1:「問い日記」を3日間だけ試す(所要3〜5分/日)——今日から3日間、仕事が終わるタイミングで「今日の業務でモヤモヤした瞬間」を1つだけ書き留める。手帳でもスマホのメモでも構いません。このモヤモヤが、AIへの問いの原石です。
  • ステップ2:書いた「問い」をそのままAIに投げてみる(所要5〜10分)——「正しい質問かどうか」は気にしなくていいです。AIは「よい質問」でも「ぼんやりした問い」でも答えてくれます。まずは対話を始めることが目的です。
  • ステップ3:「AIで試してみた」を組織でシェアする(週1回・5分)——チームのミーティングや朝礼で「今週AIを使ってみたこと」を一言シェアする機会を設ける。小さな実験を見える化することで、「自分も試してみよう」という好奇心が組織内に広がっていきます。

結論:「試し続ける文化」こそが、組織のAI活用力を決める

  • AIを使いこなすかどうかを分けるのは、ITスキルではなく「問いを持ち続け、試し続ける好奇心」
  • 怖れが好奇心を阻む最大の原因——AIは「失敗に安全な実験場」であることを組織に伝えることが経営者の役割
  • 「問い日記」のような習慣で好奇心を育て、AIへの問いを日常業務から自然に生み出す仕組みを作る

AIを導入しても使われない——その原因の多くは「使い方がわからない」ではなく「試そうとする習慣がない」ことにあります。好奇心は、AIより先に育てるべきスキルです。

第4回は「評価力」をテーマにお届けします。AIが出した答えを「よい」「悪い」と判断できるかどうか——これが、AIを使いこなす最後の壁です。


NEXT STEP

「試し続ける文化」を、組織に育てませんか

「シン・仕事術」セミナーでは、好奇心を起点にAIを日常業務に組み込む習慣づくりを、経営者・リーダー向けに体系的にお伝えしています。「うちの社員がAIを使わない」と感じている方、まずはセミナーへどうぞ。

 

社長業専念コンサルタント 横山 一成

社長業専念コンサルタント 横山 一成

「経営者の志をリスペクトし、その具体化を通じて、お客様や働く仲間もワクワクする会社へ磨き上げるサポートをする」を理念に、社長業専念コンサルティング、企業改革・業務改善等の経営コンサルティング、従業員向け研修を実施している。

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