AIに本音を伝える方法——音声入力が経営者に効く理由

「AIに頼むとき、うまく文章にしなきゃ」——その思い込みこそが、AIとの対話をぎこちなくしています。整える前に、まず声で全部出す。AIエージェント元年シリーズ第3回でお伝えします。

私はセミナーで経営者の方に、よくこう尋ねます。「AIに頼むとき、うまく文章にしなきゃ、と思っていませんか」と。たいてい、深くうなずかれます。きれいな日本語で、過不足なく、整った指示を書かなければいけない。そう思い込んでいる方が、本当に多いんです。

でも、その思い込みこそが、AIとの対話をぎこちなくしている当の原因だと、私は思っています。今日はその話をさせてください。

このシリーズは「シン・仕事術」セミナーの内容を経営者の視点で整理したもので、今回が第3回です。前回は「まず球を打て」、最高のAIを探すより、まず慣れることが先という話をしました。では、慣れるためのいちばん簡単な入口はどこか。私の答えは「話すこと」です。

「タイピングでは、思ったことの何分の一も出ていなかった」

セミナーでは、参加者に実際にAIを使ったワークを体験してもらいます。その一つに、「自分の強みを見つける」というワークがあります。私が作ったカスタムAIと対話しながら、自分の経験や価値観を掘り下げていくものです。

このとき、私は必ずお願いします。「キーボードではなく、声で入力してください」と。

最初は戸惑う方が多いです。「文章がまとまっていなくてもいいですか」「文法がおかしくても大丈夫ですか」と確認されます。「大丈夫です。思いついたことを、そのまま話してください」とお伝えすると、だんだん様子が変わってきます。

そしてワークが終わると、多くの方が同じことをおっしゃる。「キーボードで打っていたときは、思ったことの何分の一しか出ていなかった」と。

なぜ、話すと本音が出るのか

なぜ声にすると、打つよりたくさん出てくるのでしょうか。

タイピングには、無意識のうちに「編集」が入ります。これは書いても伝わらないかな。この言い方は正確じゃないな。読み返したら恥ずかしいな。そんな判断が、考えることと打つことの間に挟まってくる。結局、頭の中にあるもののほんの一部しか、文字になりません。

ところが声で話すと、この編集のフィルターが薄くなります。文法を気にせず、思いついたことをブツブツと話し続ける。すると、口を動かしているうちに、次のアイデアが浮かんでくる。言葉が、さらなる言葉を引き出してくれるんです。もやもやしたものを出し続けるうちに、自分でも気づいていなかった本音が顔を出す。

KEY INSIGHT

打つことが「清書しながら考える」だとすれば、話すことは「下書きのまま全部出す」。AIに渡す材料としては、まず全部出したほうが、ずっと豊かになります。

カーナビに、目的地を入れるように

最近、経営者の方にこんな話をします。「カーナビには、目的地を入れますよね」と。

目的地を入れれば、カーナビが道の選択肢を示してくれる。AIを使うのも、まったく同じなんです。「ここへ行きたい」という目的さえ伝えれば、やり方はいくらでも教えてくれる。AIがここまで賢くなった今、足りないのは性能ではありません。ボトルネックになっているのは、私たちの側の先入観のほうです。

「提案書を作って」と一言だけ頼んで、なんか違うものが返ってくる。これはAIが悪いのではありません。目的地を入れていないんです。あなたの頭の中には、特定の顧客がいて、特定の課題があって、自社ならではの強みがある。その目的地を伝えなければ、カーナビはどこへ向かえばいいか、わかりようがありません。

ところが多くの方は、「AIにそこまで言ってもわからないだろう」「どうせ一般論しか返ってこない」と、先回りして決めつけてしまう。これが先入観です。せっかく賢くなったAIを、昔のイメージのまま、小さく使っている。

ここで、声が効いてきます。「この案件はこういう背景で、相手はこんな課題を抱えていて、うちはこう提案したい」。目的地を、声でざっと伝えてしまえばいい。整っていなくて大丈夫です。目的地さえ入れれば、あとはAIが道を示してくれます。

話すことは、暗黙知を外に出す作業でもある

前のシリーズで、「熟練した人ほど暗黙知が多くて、かえって言語化が苦手になる」という逆説をお伝えしました。長年の経験が「なんとなくこういう感じ」という体の感覚になっていて、いざ言葉にしようとすると詰まってしまう。

声は、ここでも助けになります。キーボードだと「どう書こうか」と整理してから打とうとする。でも話すときは、整理する前に口から出る。出てきた言葉が、後から自分の考えを整えてくれる。「話しながら整理する」ほうが、私たちにはずっと自然なんです。

これは大企業も本気で取り組んでいるテーマです。KPMGジャパンは2026年1月に「暗黙知の形式知化エージェント」を、5月にはその場で対話を補助するサービスを発表しました。専門サービスを使ってでも解こうとしている課題を、私たちは音声でAIに話しかけるだけで、少しずつ前に進められます。

経営学者の山口周さんは、AIが正解を返す時代に人間に残る価値は「意味づけ」だと言います。何を大事に感じ、何に引っかかり、何を選ぶか。その主観こそが希少になる、と。

整っていない本音を声で吐き出すことは、まさにこの「自分の主観」を外に取り出す作業です。きれいな正解を書こうとしなくていい。あなたの中にあるものを、そのまま出せばいいんです。

まず何から始めるか

  • ステップ1:仕事終わりに「今日いちばん頭を使ったこと」を声で残す(3分)——これから3日間、一日の終わりに、今日いちばん考えたことをスマホの音声メモに話してみてください。その文字起こしをAIに渡して「整理して」と頼む。ぐちゃぐちゃのままで大丈夫です。
  • ステップ2:次の指示を、打たずに声でやってみる(10分)——ChatGPTでもGeminiでも構いません。次にAIに何か頼むとき、打つのをやめて、話しかけてみてください。うまく話せなくていい。文法が崩れていい。一度やってみると、出てくる量の違いに驚くはずです。
  • ステップ3:頼む前に「目的地」を声で伝える(2〜3分)——本題を頼む前に、「この件の背景」「相手のこと」「自分がどうしたいか」を声でざっと話す。カーナビに目的地を入れるのと同じです。これを習慣にするだけで、返ってくるものの精度がまるで変わります。

完璧に話せなくていいです。とにかく「全部出す」。それが目的です。

まとめ:うまく書こうとしなくていい

AIに頼むとき、うまく文章にしなきゃ、というプレッシャーは手放して大丈夫です。整える前に、声で全部出す。カーナビに目的地を入れるように、「どうしたいか」さえ伝えれば、道はAIが示してくれます。

賢くなったAIを前にして、いちばんのボトルネックは性能ではなく、私たちの先入観です。「どうせわからないだろう」と決めつけて、小さく頼んでしまう。その思い込みを外して、思っていることを声に出す。たったそれだけで、AIとの対話はまるで変わります。

「整理してから話す」のではなく「話しながら整理する」。この小さな転換から、始めてみてください。

次回・第4回は「コピペがなくなる」をお届けします。エージェント型AIが当たり前になると、「情報を集めて、整理して、貼り付ける」という仕事のかたちが根本から変わります。トヨタが製造現場で徹底的に減らしてきた「移動の無駄」が、私たちの机の上の仕事にどう当てはまるのか。具体的なイメージとともに考えます。


NEXT STEP

「話しながら考える」を、組織の力に変える

声で本音を引き出す習慣は、経営者個人だけでなく、組織の暗黙知を形にする力にもなります。「シン・仕事術」セミナーでは、実際のワークを通じてこの感覚を体験いただけます。

 

社長業専念コンサルタント 横山 一成

社長業専念コンサルタント 横山 一成

「経営者の志をリスペクトし、その具体化を通じて、お客様や働く仲間もワクワクする会社へ磨き上げるサポートをする」を理念に、社長業専念コンサルティング、企業改革・業務改善等の経営コンサルティング、従業員向け研修を実施している。

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