自社で作るか、外に任せるか。AIで何かを作ろうとすると、経営者は必ずこの二択にぶつかります。そして、どちらを選んでも、しっくりこない。——その二択そのものが、いま見直すべき前提かもしれません。シリーズ最終回です。
自社で作るか、外に任せるか。
AIで何かを作ろうとすると、経営者は必ずこの二択にぶつかります。そして、どちらを選んでも、しっくりこない。中小企業の現場では、これが普通です。
その二択そのものが、いま見直すべき前提かもしれません。今日は、二択ではない「第三の道」の話をします。
シリーズもいよいよ最終回です。前回は「社内で誰が作るか」——現場の困っている本人こそが作り手になる、という話をしました。今回はその続きで、「社外と、どう組むか」です。
自社開発か、丸投げ外注か、の二択ではない
「AIで業務システムを作りたい。でも、社内にエンジニアはいない。かといって、外注すると高いし、時間もかかる」。中小企業の経営者から、よく聞く悩みです。
たしかに、ゼロから自社開発するのは、人材的に難しい。一方で、まるごと専門会社に丸投げすると、お金も時間もかかり、できあがった頃には現場の要望とずれている、ということも起きます。
でも、いまは第三の道があります。私はこれを「フロント実装」と呼んでいます。
要件を定義し、AIへの指示を組み立て、小さなアプリを素早く作る。ここは、AIを使えば、専門のエンジニアでなくても、速くできます。一方で、セキュリティや、既存システムとの統合、安定運用といった「厚み」が要る部分は、専門会社に任せる。速く小さく作る前半を社内(または伴走者)が、堅く支える後半を専門会社が担う。この役割分担です。
念のため補足します。前回お伝えしたとおり、この「前半」を担うのに一番ふさわしいのは、本来、現場で困っている本人です。要件を削れるのは、その人だけですから。ただ、最初の一歩でつまずくことはあります。何をどう頼めばいいのか、そこが分からない。私のような立場の人間が入るのは、そこを一緒に越えるためであって、代わりに作ってあげるためではありません。前半を社内に返していくのが、伴走の目的です。
速い前半と、厚い後半を、組み合わせる
実際に、こんな形が動き始めています。
私が関わっている案件では、私の側が、要件定義・プロンプト設計・小さなアプリ作りを担います。とにかく速い。現場の「これが欲しい」を、その日のうちに形にできます。
一方で、あるシステム会社さんが、セキュリティや統合、サブスクリプションとしての提供という「厚い」部分を担います。こちらは、私には到底作れない領域です。
最初は、住み分けができるか心配でしたが、その会社の方から、こう言っていただけました。
「AIの専門会社の視点から見ても、違和感がない」
速さと厚み。どちらかではなく、両方を組み合わせる。これが、中小企業にとって現実的な実装の形だと感じています。
世の中の動きも、この方向です。AI支援の現場では「現場に常駐して定着させる」サービスが増えてきました。ガートナーも、未承認のAI利用を全面禁止するのではなく「責任ある活用」へ舵を切るよう提言しています。自社で抱え込むか、全部任せるか、の時代ではなくなってきたんです。
AIは「年齢」ではなく「繋ぎ方」で差がつく
もう一つ、最終回にお伝えしたい話があります。
私の知人に、69歳でAIを使いこなしている方がいます。シン・仕事術にも熱心で、今秋、一緒に登壇することになりました。研修のフィーも、AIを取り入れてから上がったそうです。
「AIは若い人のもの」と思われがちです。でも、現場を見ていると、それは違います。差がつくのは、年齢ではありません。「繋ぎ方」です。
自分の仕事のどこにAIを差し込むか。誰と組んで、足りない部分を補い合うか。さっきの「フロント実装」も、まさに繋ぎ方の話でした。自分の速さと、専門会社の厚みを繋ぐ。69歳の彼も、自分の経験とAIを上手に繋いでいる。
AIを使いこなすとは、何でも自分でやることではなく、上手に繋ぐことなんです。差がつくのは年齢ではなく、繋ぎ方です。
この「繋ぐ」発想は、ツール選びでも効きます。大企業は、取引先にも社員にも「うちのやり方に合わせて」と言える。だから一つの環境に寄せられます。でも中小企業は逆で、相手の都合に都度合わせる側です。kintone(サイボウズの業務アプリ基盤)を使う取引先もあれば、Teamsで完結している取引先もある。きれいに一つへ寄せるのは、現実には難しい。だからこそ、無理に寄せ替えるより、今ある環境のまま、AIで横に繋ぐ。これも立派な繋ぎ方です。
独立研究者の山口周さんは、AIの時代に仕事は「再構成される」と言います。再構成とは、つまり繋ぎ直すこと。誰が、何を、どこまでやって、どこから誰に任せるか。この役割設計こそ、これからの経営者の中心的な仕事になります。
借りるだけでは、価値を吸い取られる
最後に、もう一段大きな視点をお伝えします。
マイクロソフトのナデラCEOが、2026年6月にこんな趣旨の発信をして、話題になりました。
価値のすべてが少数の基盤モデルに集中する世界は、経済的にも政治的にも安定しない。
最先端のAIをただ借りて使うだけでは、その集中の側に立てない、という問題提起です。
彼が使ったのが、「トークン資本」と「人的資本」という言葉です。トークン資本とは、自社の業務やノウハウをAIに教え込んでできた、自社だけのAIの力。人的資本とは、それを使いこなし、さらに良くしていく人の力。この二つが、お互いを複利で育て合う「学習ループ」を、自社の中に作れるかどうか。そこで勝負が決まる、という話です。
これは、このシリーズで言い続けてきたことと、ぴたりと重なります。汎用のAIを借りてくるだけなら、隣の会社と同じです。でも、自社の賃金台帳の処理、自社の日報、自社の問い合わせ対応——そこにAIを差し込み、現場が使い、改善していくと、それは誰にも真似できない「自社の資産」になっていきます。
借りるのではなく、自社のループを育てる。フロント実装も、読めない資産を使える資産に変えることも、すべては、このループを自社の中に回すための一歩でした。
まず何から始めるか
- ステップ1:作りたいものを「速い前半」と「厚い後半」に分ける(10分)——やりたいことを、「素早く試せる部分」と「堅さが要る部分」に分けてください。前半は社内や伴走者で、後半は専門会社で。役割分担の地図になります。
- ステップ2:自社にない「厚み」を持つパートナーを1社探す(継続)——セキュリティや統合を任せられる相手を、一社見つけておいてください。丸投げ先ではなく、組む相手として、です。
- ステップ3:「繋ぎ方」で自分の仕事を見直す(10分)——「全部自分でやる」をやめて、「どこを誰と繋ぐか」で考え直してみてください。年齢も、スキル不足も、繋ぎ方で乗り越えられます。
抱え込まず、丸投げせず、繋ぐ。
結論|抱え込まず、丸投げせず、繋ぐ
- 自社開発か外注かの二択ではない。速く小さく作る前半と、堅く支える後半を組み合わせる「フロント実装」という第三の道がある
- AIで差がつくのは年齢ではなく「繋ぎ方」。自分の経験とAIを、自分と専門会社を、上手に繋ぐ人が成果を出す
- これからの経営者の中心的な仕事は、「誰が何をどこまでやるか」の役割設計=繋ぎ直すこと
シリーズを終えて
全6回にわたって、「AIを”入れて終わり”にしない——中小企業のAI実装」をお届けしてきました。
全部AI化より、始点と終点だけ。読めない資産を、使える資産に。動いたAIを、儲かる数字に。空いた手を、人にしかできない仕事へ。作れる人ではなく、困っている人が作る。そして、抱え込まず、丸投げせず、繋ぐ。
通してお伝えしたかったのは、AIは「入れること」がゴールではない、ということです。現場で動かし、成果に変え、人を活かして、初めて意味を持つ。そしてそれを、借り物で終わらせず、自社の「学習ループ」として育てていく。それは、ツールの話ではなく、経営の話です。私が「シン・仕事術」と呼んでいるのは、まさにこの、仕事の仕方と考え方が変わっていく営みのことです。
AIという新しい力を、自社だけの資産に育てていきましょう。
参考・根拠資料
- 「シン・仕事術」セミナーおよび支援先での案件・対話(筆者の観測範囲より。システム会社との役割分担、69歳の実践者の事例を含む)
- AI実装支援の「現場常駐・定着」への重心移動、AIが既存チャットツールに常駐する製品、ガートナーの「シャドーAIは禁止から責任ある活用へ」提言など、2026年の各種報道より
- 山口周氏のAI論(AI時代に仕事は再構成される)より
- マイクロソフト サティア・ナデラCEOによる「トークン資本」と「人的資本」の学習ループ、AIモデル独占への警鐘に関する発信(2026年6月)より
AIを、自社だけの資産に育てるために
「シン・仕事術」セミナーでは、こうしたテーマを毎月、経営者の視点で深めています。抱え込まず、丸投げせず、繋ぐ——その具体的な進め方を、一緒に考えませんか。
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