御社のAIが”一般論”しか答えない、本当の理由を知っていますか?

「AIに聞いても一般論しか返ってこない」——その原因は、AIの性能ではなく、渡している情報の「形式」にある。社内に眠る暗黙知を、AIが正確に読み取れるテキストへ変換すること。それが、競合がどれだけAIツールを導入しても真似できない、自社だけの競争優位をつくる第一歩だ。

第2回では、VRIOフレームワークを使って「AIツール自体には希少性がない、差がつくのは自社独自のナレッジだ」という結論を出しました。今回はその続き——そのナレッジを、具体的にどう準備すればいいかをお伝えします。

1. AIが「平均的な回答」しか出さない理由

AIを使い始めた方から、よくこんな声を聞きます。

「ChatGPTの回答、なんか教科書的なんだよね」「うちの業界の特殊事情を分かってくれない」「結局、一般論しか返ってこない」

これは、AIが悪いわけではありません。現在のAI(大規模言語モデル)は、インターネット上の膨大な情報を学習した「超優秀な一般人」です。どんな業界の質問にもそれなりに答えられますが、あなたの会社のことは何も知りません。御社の主要取引先の特徴、過去に起きたトラブルとその対処法、「うちではこうする」という暗黙のルール——これらは、インターネットのどこにも載っていないのです。

KEY INSIGHT

自社ならではの回答を得るには、自社ならではの情報をAIに渡す必要がある。シンプルだが、ここに気づいているかどうかで、AI活用の成果は大きく変わる。

2. 問題は「情報の形式」にある

「なるほど、自社の情報を読み込ませればいいのか」——そう思って、社内のPowerPoint資料や過去の報告書をAIに渡してみた方もいるでしょう。でも、期待したほどの結果が出なかった経験はありませんか?

実は、ここに大きな落とし穴があります。私たちが日常的に作っている資料の多くは、「人間が見てわかる」ことを目的に作られています。視覚的にインパクトのある図解、矢印や囲みで関係性を表現したレイアウト、キーワードだけの箇条書き(詳細は口頭で補足)——これらはプレゼンの場では効果的ですが、AIにとっては非常に「読みにくい」形式なのです。

3. 「Human-Readable」と「AI-Readable」の違い

ここで、2つの概念を整理させてください。Human-Readableとは、図・グラフ・レイアウトで視覚的に伝える形式で、「見ればわかる」ことを前提に行間や文脈を読み手が補完します。一方、AI-Readableとは、テキストで論理的に記述され、前提条件・判断基準・結論が明示されており、「書いてあることだけで完結」している形式です。

たとえば、経費精算のルールを例に比べてみましょう。

【Human-Readable:従来のマニュアル】

申請 → 上長承認 → 経理確認 → 支払い
※金額により承認者が異なります(別紙参照)
※領収書必須(例外あり)

人間が見れば「だいたいわかる」資料です。でも「金額によりどう異なるのか」「例外とは何か」は、この資料だけではわかりません。

【AI-Readable:構造化された記述】

# 経費精算ルール

## 承認フロー
– 申請者が経費精算システムで申請を作成する
– 承認者が内容を確認し、承認または差し戻しを行う
– 経理担当が最終確認を行い、支払い処理を実行する

## 承認者の決定基準
– 10万円未満の場合:直属の上長が承認
– 10万円以上50万円未満の場合:部長が承認
– 50万円以上の場合:経営管理部長が承認

## 領収書の要否
– 原則として、すべての経費に領収書が必要
– 例外:公共交通機関の運賃(ICカード履歴で代替可)
– 例外:慶弔費(招待状・案内状のコピーで代替可)

こちらはAIが読み取りやすい形式です。「15万円の経費を申請する場合、誰の承認が必要ですか?」と聞けば、AIは「部長の承認が必要です」と正確に答えられます。

4. 前回の経理事例を振り返る

第1回でご紹介した卸売会社の経理担当者の事例を、もう一度見てみましょう。彼女がやったことは、まさに「AI-Readable化」でした。

Before(頭の中にあった状態):「A社は月末締めじゃなくて20日締めなんだよね」「この経費は、勘定科目が特殊で…」「このパターンは要注意」

After(言語化した状態)

# 取引先別・請求処理ルール

## A社
– 締め日:毎月20日(※他社と異なるので注意)
– 届く請求書の形式:PDF(メール添付)
– 確認ポイント:消費税の端数処理が独自方式。1円単位で確認する。

## 勘定科目の判断基準
– 社員の研修参加費 → 「教育研修費」
– 外部講師への謝礼 → 「支払手数料」(※「研修費」ではない)
– 書籍購入 → 5,000円未満は「消耗品費」、5,000円以上は「図書費」

このようにテキストで、条件と判断基準を明示した形にすることで、NotebookLMに読み込ませた際に、AIが正確に回答できるようになったのです。

5. 「口頭で補足」をやめる

多くの会社で、資料作成の際にこんなことが起きています。PowerPointは「見栄え重視」で作る。詳細は「会議で口頭説明」する。質疑応答で出た補足情報は「議事録に残らない」——結果として、本当に重要な情報は、誰かの頭の中、または会議室の空気中にしか存在しない状態になります。

これはAI時代以前から「属人化」の問題として語られてきたことです。ただ、AI時代においては、この問題の重要性がさらに増しています。

KEY INSIGHT

AIは「書かれていないこと」は絶対に理解できない。人間なら文脈を補完できるが、AIには「前も言ってたやつ」が通じない。口頭で補足する文化を見直すことが、AI活用の前提条件だ。

6. 今日から始める「AI-Readable化」3つのステップ

「AI-Readable化」は、高度なシステム導入の前に、経営者の号令一つで始められます。

ステップ1:「資料はAIも読む」という前提に切り替える

社内の議事録や報告書を作成する際、「この資料を、AIに読ませて質問したらどうなるか?」を意識してみてください。図だけで説明していないか?「詳細は別途」で逃げていないか?前提条件を省略していないか?——この意識があるだけで、資料の作り方は自然と変わっていきます。

ステップ2:判断の「理由」を記録する

結論だけでなく、「なぜその判断に至ったか」を残す習慣をつけましょう。

  • ❌ 悪い例:「A案を採用」
  • ⭕ 良い例:「A案を採用。理由:初期コストは高いが、3年間の運用コストを考慮するとA案が最も安価。また、B案は保守業者が遠方のため、緊急対応に不安があった。」

この「理由」の蓄積が、AIがあなたの会社の「判断の癖」を学ぶ材料になります。

ステップ3:ベテランの頭の中を「棚卸し」する

第1回でお伝えした「この人がいないと困る」業務。その担当者に、週に30分でいいので「最近どんな判断をしたか」を聞く時間を作りましょう。聞き方のコツは、「最近、ちょっと迷った案件ってありました?」という質問です。迷った案件には、必ず「判断基準」が隠れています。「結局こうしたんですけど、理由は○○で…」という説明が、そのまま貴重なナレッジになります。

今回のまとめ

  • AIが「一般論」しか返さないのは、自社の情報を与えていないから
  • 従来の「見やすい資料」は、AIにとっては読みにくいことが多い。
  • 「AI-Readable」とは、前提・条件・判断基準がテキストで明示された形式のこと。
  • 「口頭で補足」する文化を見直し、書かれたものだけで完結する資料を目指す。

今日からできる小さな一歩

  • 社内で最もよく使われる資料を1つ選ぶ:マニュアル、申請書の記入例、FAQ、何でもOK。
  • その資料を、AIに読み込ませてみる:NotebookLMでもChatGPTでも可。「この資料について質問していい?」と聞く。
  • 試しに質問してみて、回答の精度を確認する:正しく答えられない部分=「AI-Readable」になっていない部分。
  • その部分を、テキストで補足してみる:「この場合は○○」「理由は△△」を書き足すだけで、精度が上がる。

この作業を1つの資料でやるだけで、「AI-Readable化」の感覚がつかめます。まずは、明日30分だけ時間を取ってみてください。

次回(第4回・最終回)では、これらの仕組みを「動かし続ける」ためのリーダーシップについてお伝えします。一度仕組みを作っただけでは、すぐに陳腐化します——AIの進化に合わせてナレッジをアップデートし続ける、新時代の「経営のOS」をお話しします。


NEXT STEP

「AI-Readable化」を自社で実践する
「シン・仕事術」セミナー

「社内のノウハウをAIに活かす形に変えたい」という方へ。自社の暗黙知を言語化し、AIが使える知的資産へ変えるプロセスを、事例とワークショップ形式で体験できます。


 

社長業専念コンサルタント 横山 一成

社長業専念コンサルタント 横山 一成

「経営者の志をリスペクトし、その具体化を通じて、お客様や働く仲間もワクワクする会社へ磨き上げるサポートをする」を理念に、社長業専念コンサルティング、企業改革・業務改善等の経営コンサルティング、従業員向け研修を実施している。

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